通り雨

高校に上がる時におやすみプンプンを買って読んだ。自分の心の故郷になっている漫画のひとつである。

プンプンは幼い頃に出会った初恋の女の子に人生を狂わされるストーリーなのだが、本人自体普通の男の子である。一方でプンプンのお母さんはチョー破天荒で、魅力的なキャラクターのひとりである。

ネタバレになるのであまり詳しく書かないが、あるシーンのプンプンママの台詞がおやすみプンプンを通して1番好きである。

「フフ……なんかさ…、…今こうして雨宿りしてるみたいに、一時的な不安や孤独から逃げまわるだけがあたしの人生なんだとしたら、…なんて人生って悲しいんだろう。」

職場からの帰り、大雨が降った。駅から家までまあまあ歩く。雨足が強くなるのを電車の車窓から見送りながらどうしようかなと考えていた。

最寄駅はいつになく人でごった返していた。皆迎えに来る誰かを待っているようだった。少し歩いてバスのロータリーに出ると、バスやタクシー以外の車がたくさん止まっていて、駅舎の屋根の下にいる人の何人かが車に乗り込んでは車が発進し、その空いたスペースにまた新たな車が停まるということがひっきりなしに行われていた。

私は傘を持ってきていなかったから、駅舎の屋根を飛び出し道路の向かいにあるコンビニで傘を買わなくてはならなかった。数十メートルの距離を歩いただけで靴の中がビチャビチャになるくらいの雨だった。コンビニで割高の傘を買った。この大雨の中では心許ないビニール傘をさしながなら、自分には戻る場所がないと思った。

それは悲観的な感傷というよりは、「戻る場所が無いという事はどこへでも行けるな」という全能感みたいな、ウキウキした気持ちで、多分これからも家を買ったりとか、車を買ったりとか出来ないししないだろうなと思った。不景気とかじゃなくて、同じ会社で働くのは向いてないし、保険に入ったりとかも向いてないし、結婚するにしても主婦になるのは向いてない。だから政治に対して何の感情も湧かないのかもしれないと思った。固定資産を持てるほどの給料が無くても、夫婦共働きでないと自活していけない事も別に今は困ってないし。

家以外の雨宿りする場が自分には沢山あって良かったなと思うし、ひとり雨に濡れる寂しさに酔える性格で良かったなと思うし、酔ってる自分を冷笑できる人間で良かった。