劇団イキウメ「太陽」の感想

6月に公演予定だった「外の道」が中止になってしまったことで、今実験的に外の道にまつわるものを集めたサイト(https://sotonomichi.jp/)が作られており、そちらで無料公開されていた2016年公開の「太陽」という演目の感想です。

二十一世紀初頭、世界的なバイオテロで拡散したウイルスにより人口は激減し、政治経済は混乱、社会基盤が破壊された。
数年後、感染者の中で奇跡的に回復した人々が存在することが明らかになる。
彼らは免疫や代謝において人間をはるかに上回る身体に体質変化していた。
若く健康な肉体を長く維持できる反面、紫外線に弱く太陽光の下では活動できないという欠点があったが、変異は進化の過渡期であると主張し自らを「ノクス」(ホモ・ノクセンシス = 夜に生きる人)と名乗るようになる。
ノクスになる方法も解明され、徐々に数を増やす彼らは弾圧されるが、変異の適性は三十歳前後で失われる為、若者の夜への移行は歯止めが効かなくなった。
次第に政治経済の中心はノクスに移り、遂には人口も逆転してしまう。

ノクスの登場から四十年、普通の人間は三割ほどになり、かつて日本と呼ばれた列島には、ノクス自治区が点在し、緩やかな連合体を築いていた。
都市に住むノクスに対し、人間は四国をあてがわれ多くが移住していたが、未だ故郷を離れず小さな集落で生活するものもいた。
かつてノクス殺傷事件を起こしたその集落(長野八区)は、隣接するノクス自治区から経済封鎖を受け続けていた。
ほとんどの者が集落を離脱し、残った住人はわずか二十数人。

その十年続いた村八分的な制裁が終わりを告げ、再びノクスとの交流が始まった_。

(サイトより抜粋)

イキウメのことは大学の授業で物語論をとっていた時に映像として観て、舞台に行きたい!となり去年「獣の柱」(これも今サイトで無料公開してます!)を観ました。舞台観るの苦手という方はいくつかの作品が映画にもなっていて、そちらを観てみるのもありです。太陽も映画になってるみたい!

「僕たちは太陽に背を向けてでも強くならなくては」

舞台セットから衣装から台詞からかなり説明的で話の意図と合うように計算されて作られている。それにも関わらずバランスが取れていて嫌な感じがしないのがほんまにすごいな〜って思います。

新人類と旧人類の会話シーンがほんまに絶妙ですごい。鑑賞者は旧人類側なのですが、新人類の微妙〜に話通じん感じがめちゃくちゃイライラする…。特に私は女の人がほんまにイラ〜となりました。すげ〜ッ。

進撃の巨人のカラクリを知ってる側と知ってない側の辻褄合わない会話シーンってマジですごいと思う(エレンとユミルがライナー達に拐われて、巨大樹の森で夜を待つシーン)のですが、それに似たものを感じる。漫画と違って舞台は演出家の他役者も話の仕組みを知りながらその場に沿うような世界を作るからすごい。すごいしか言ってない。

「creepy偽りの隣人」や「散歩する侵略者」(映画しか観てない)的な、話はできるけど話はできないみたいな謎の存在みたいなのを生み出すのが上手いですね。共感が無いというだけでこれだけのストレスがあるから、いかに言葉よりイントネーションや身振り手振り、表情みたいなものに人間のコミュニケーションの本質があるかみたいな事を思ってしまう。

“今”に関連するふたつのフィクションを並べました。

Twitter公式が言ってましたが、正に今がタイムリーで心がウッ〜となる。元気な時に観た方がいい。

私は去年獣の柱観た時は、終末思想の事とか生死観みたいな上澄みをなんとなく舐めた感覚でしたが、今観た太陽はかなり実感を伴っていて良いのか悪いのか…になりました。SFってかなり社会派だよなと今の時勢だと思います。最悪。

天空の城ラピュタのシータの台詞に「今は、ラピュタがなぜ滅びたのかあたしよく分かる。ゴンドアの谷の歌にあるもの。”土に根をおろし、風とともに生きよう。種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう”。どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ」っていうのがあって、それをかなり反芻する場面が多くありました。メインのテーマとしては逸れるかもですが。

正しければ正しいだけ、人は身体感覚から離れてどこか遠くへ行ってしまうと私は思っています。そのどこかは、人を幸せにするのか私には分かりません。ただ、正しい事で今手にしている沢山のものを失ってしまうであろうという感覚をずっと持ち続け、出来たら正しくないまま生きていたいです。

演劇はそういう意味で今正しくないんだと思う。メディアを見ると多くの人がそう思っているように感じます。ただ、演劇みたいなものを全員が望まない世界では人は生きられない。そういう意味でも、私はずっと演劇が、劇場が側にあって欲しいと切に願っております。